日本伝統工芸会正会員、森康次先生の工房にお伺いしました。
日本刺繍、日本伝統工芸会正会員の森康次先生の工房に催事出品のお願いにお邪魔しました。
刺繍とは、糸を針に通し、それを生地に刺し、柄を出す・・・それが刺繍というもの。正直なところ恥ずかしながら、そんな浅い浅い知識と想像力しか持っていなかった。今回初めて森さんのものづくりの一旦を見せて頂き、刺繍を刺す前の準備、奥行の深さや技術の凄さに驚きました。
まずは糸、左上のこの写真は先生が白い糸からご自身で染めた色糸。なんと全部で約2800色もあり、この道57年の先生の財産。その微妙な糸の色の違いを先生の色彩感覚でデザインに使い分ける。
そして、刺繍をする為には、もう一つ大事な作業がいる。それは、「撚り」
この糸に手で撚り(より)をかけて初めて日本刺繍の刺繍糸が出来上がる。撚りをかけ刺繍をすることで、擦れにも大変強くなる。中国の蘇州刺繍に見られる様な撚りをかけず細い糸で何度も上から重ねて施す油絵のような絵画的な用途とは違い、日本人は衣にも刺繍を使う。特に畳文化の日本において、正座をした時など刺繍が擦れに負けずに対応する上でもこの撚りの作業は欠かせないし理にかなったもの。
撚りの掛け方は、ある原始的な道具(写真右上)に糸を(この糸とは、お蚕さんが、口から吐いた物。市販されている糸は、これを十数本束ね、手ではなく機械で撚りをかけ糸にしています。)何本か束ね、金具に糸を掛け、一方の数本の糸を口で、もう一方を両手の手のひらに持ち、その手の平で撚りを掛けていく。この時の撚りの回転数は多すぎてもダメ、少なくてもダメなのだそう。糸は撚りをかける糸の本数を変える事で、通常約4種類の太さに分ける(左下写真)。更に糸のよりかたで形状を変えることができ、デザインにより複雑な表現が可能になる。
この様に刺繍糸を作るだけでも、相当の手間がかかる。
上記をシンプルにまとめると、
①白の上質な絹糸を買い、②それを自らが思う色に染め、③糸に撚りをかける。
そうしてはじめて生地に刺繍を刺す糸が出来るのである。
デザインのデッサン(草稿)→デザインの完成→生地を染め(地染め)→デザインを拡大して生地に写す(下書き)→糸を選ぶ(色)→柄の大きさ、柄の強さなどで糸を撚り(太さ)→下書きに沿って、デザインを元に刺繍を施す。
写真右下は、刺繍台に生地を張り、森先生が刺繍を施している様子。
生地の目を読んで、生地の目の谷を目視で2つ飛ばしに等間隔で生地の目に平行に刺繍をし、雷神の雲の部分を刺繍で表現されている様子。生地の目に沿って刺繍をすることで平行に整然とした凛とした美しさが現れる。これは絓縫い(すがぬい)という刺繍の方法で、刺繍の方法は数種類ある。
先生の技術は勿論ですが、人を感動させるには、持たれる人の事、着用される人が喜んでくれる様にという姿勢があった。それは先生の妥協や手抜きの無い準備の細やかさに添えられていました。
先生の作品は、10/18(水)から京都高島屋で行われる第64回 日本伝統工芸展でご覧頂けると思います。
先生ご自身のインスタグラムでも先生の作品がご覧頂けます。